・・虚構の続き
・現代学園



畳畳

多分僕は、シンのことが好きなのだろう。散々考えて考え抜いた結果、そういう結論におさまった。だからといって僕はそれをシンに伝えることはしない。シンにはもう彼女がいるのに、そこに割って入れる勇気などないし、第一、受け入れられる確率の方が少ないのだ。

よく考えたら、シンとはここ最近殆ど喋ってないけど、それはもしかしたら僕の所為じゃないかということに気付いた。ゲームの話だって持ちかけたのは僕からだし、家に遊びに来ないかと誘ったのも僕だ。家ではシンは良く笑い良く喋っていたけれど、そういえば学校でシンと喋ったことは殆どない。

おそらく僕から話し掛ければ、シンは笑って返事を返してくれるだろう。今まで通り、仲の良い教師と生徒の関係に戻れるだろう。

テスト期間が終わり、僕の授業も再開した。僕はいつもより少しだけ早めに学校に来ていた。今日の授業はシンのクラスではなかったけど、校内にいればシンに会えるかもしれないと思ったのだ。

しかし、出会ったのはシンではなく、金色の髪の少年だった。

ちょっと良いですか、といって僕は人気のない階段の踊り場まで連れ出された。彼は一体誰だろうとまじまじ顔を見るが、どうも思い出せない。金色の髪をした、綺麗な顔の少年だった。少年はぺこりと頭を下げてから言った。

「自分は3年F組のレイザバレルといいます。突然こんなところに連れ出して申し訳ありません」

深々と頭を下げる少年レイに、僕は少しだけ感心した。アスランみたいな子だ。F組ということは、僕の授業は入っていない。レイは続ける。

「1年A組シンアスカのことで、話があります」

「…シンのことで?」

なんだろう、と僕は首をかしげる。レイはひと呼吸置いてから、じっと僕の目を見て言った。

「シンと、何かあったんですか?」

「え?」

何かあったのか、と問われ、僕は思わず狼狽えた。あったと言えばあったのだが、しかしシンとキスをしてしまっただなんて彼に話すわけにはいかない。もしシンが僕と仲良くなったことを彼に伝えたとして、最近僕とシンが喋っていないのは勝手な僕の勘違いなのだ。何もない、今まで通りで行こうと思った矢先にそんなことを訪ねられ、僕は何がなんだかわからずにとにかく頭が混乱していた。

そんな僕の様子を察してくれたのか、レイは慌てて補足する。

「何か、というのは…その、シンが、貴方に嫌われたかもしれないと言っているんです。煩いので、貴方に直接確かめに来たんですが…」

「そんな…まさか」

僕は静かに首を横に振った。やはりシンは、僕に嫌われたと思ってしまっていたらしい。そんなこと、全然ないのに。やはり今日は早めに来て良かったと僕は思った。

「じゃあ、シンのことは嫌いじゃない、ということですか?」

レイは更に問いかける。

「うん、そうだよ」

「ということは、シンのことが好きってことですよね?」

「え?」

確かにシンのことは嫌いじゃない。けれど、それがイコール好きかと問われると、僕は答えることが出来ない。それが例えばシンではなく、アスランとかイザークだったなら僕はすぐに「好きだよ」と答えられたのだろうけれど、シンの場合だけはどうしてもすぐには即答できなかった。頭ではわかっていても、理屈より先に恥ずかしさが出てしまう。

「嫌いじゃないからって、す、好きとは…」

「じゃあ普通ですか?」

更にレイは僕を問いつめる。僕は教師でシンは生徒だ。普通という答えが一番なのだろうけれど、でも僕はシンが好きだし、きっと彼は僕がシンと仲良く遊んでることも知ってるのだろう。そんな彼に「そうだよ、普通だよ」なんて言ってしまえば、シンに対してとても失礼な発言をしてしまうことになる。僕は諦めて腹を括った。

「…好きか嫌いか普通かで言うなら…まあ、好きだけど…」

「そうですか…ありがとうございます」

レイはそこで初めてほんの少しだけ静かに微笑むと、ぺこりとまた一礼して僕の前を去って行った。それと同時に校内に予鈴が鳴り響き、僕も慌ててその場を去った。

「結局会えないし…」

ぽつりと呟いて、僕は科学準備室の前に立った。シンに会おうと意気込んで早めに学校に来たは良いが、シンの友人だという少年に捕まってしまい朝は結局シンに会えず、休み時間はというとタイミング悪くアスランや色々な先生に捕まってしまい、シンと喋るどころか姿を見ることすら敵わなかった。放課後は新しい機材の関係で呼び出しを受け、先刻ようやく終わったところだ。シンはもう、とっくに帰ってしまっているだろう。彼女と一緒に。

トントンと科学準備室の扉をノックするが、返事は無かった。僕は首をかしげ、ドアに手をかける。がたん、と音がなるだけで、扉は開かなかった。鍵がかかっている。ということは、イザークはもう帰ってしまったのだろう。

「とことんついてないし…」

はあ、と溜息を吐いて項垂れながら、僕は踵を返す。イザークもシンもいないのなら、今日は諦めてもう家に帰ろう。

下駄箱で靴を履き替え、校舎を出る。暫く歩いた校門のところで詰まらなさそうに俯いている、シンを見つけた。

「シンくん」

名前を呼ぶと、シンは驚いたように顔を上げた。

「どうしたの?誰かと待ち合わせ?」

僕が尋ねると、シンはきょろきょろと辺りを見回してから

「ちょっと、先生を待ってたんだけど…」

「先生って、僕?」

シンはこくりと頷いた。

「一人?ザラ先生と一緒じゃないのか?」

先刻からきょろきょろと僕の背後を窺っていたのは、そのためだったのか。僕は首を横に振る。

「アスランとは、行きも帰りも別行動だよ」

「なんだ、そっか」

にこりとシンが笑うので、僕も思わず微笑んだ。









すごい中途半端におわり