02 泣きたくなったらいつでも言って

「どうして人は、分かり合えないんでしょうか」

シンがそう尋ねると、キラはにこりと微笑んだ。

「きみは誰とわかり合いたいの?」

「…それは、」

今は殆ど連絡をとっていないかつての友人か、反発してしまったかつての上司か、それとも、世界中にあふれる争いをおこす人たちか。

キラはシンの隣に屈みこむと、さらさらとした砂浜を手ですくい、意味のない山を作り始めた。シンはキラが苦手だった。キラは自分と同じコーディネーターで、しかもこの若さで結構な地位に立っていることもあり、いつも些細な争いごとに巻き込まれているというのに、彼は憤ることもなくただ笑って流してしまう。最初は関心していたシンだったが、よくよく観察していたら、彼の行動にはあまり意味が伴わないことに気が付いた。彼は怒ることも許すこともしない。人と人は分かり合えないと、思っているのかもしれない。

「きみはいつも泣きそうな顔をしているね」

山を作るのに飽きたのか、今度はその山を平坦に戻しながらキラが言った。シンは何も答えなかった。彼の言葉が、特別的を射ているわけでも、反発しているわけでもない、肯定の意を込めた沈黙。

「どうして泣きそうな顔をしているの?」

「あなたには、わからないことです」

彼にも昔、色々あったとアスランから聞いた。でもそれは彼の問題で、これはオレの問題だ。すこし棘のある物言いになってしまったが、キラはさして気にしていないようだった。シンはちらりとキラを見た。彼は平坦に戻した砂浜を、今度は掬いとるように穴をあけている。

「だから聞いたんだけど…」

少し困ったような声色でキラは言う。

「僕はね、人は分かり合えないものだと思うんだ」

シンは頷くわけでもなくただキラを見降ろした。彼はどこか遠い、海の奥を見つめて言う。

「もし君が泣きたい理由を聞いたとしても、きっと僕はきみとはわかりあえない」

その通りだ、とシンは思ったが、少し納得がいかなかった。それじゃあまるで、争いはなくならない、と言っているように聞こえたから。キラは砂浜の穴を埋めることなく、静かに立ち上がった。ぱんぱんと手に付いた砂を掃って、シンの方を向く。

「でもね、もし僕がそれを知ったら、僕はそのこわいものから君を守れると思うんだ」