01 静寂からきみを守るよ

まるでザフトにいた頃とは大違いだ、とシンは思った。ここはいつも賑やかで、絶えず笑い声に満ちている。戦闘が少ない、というのもあるが、それ以前にこの土地のお国柄なのだろうか。咎める上官もいなければ、元首自ら遊びに来ている始末。それでも皆仕事の手は休めないので、流石、と思いながらもシンは、会話と仕事両方に後れを取らないよう必死に集中していた。

仕事をするのが好きだった。自分より一回りも二回りも年上の人の話を聞くのは新鮮だったし、最近できた後輩との談笑もかかせない。なにより仕事をしている間は、何も考えずに済んだから。不意に頭によぎる寂しさや哀しさとは違ったよくわからない感情が、この暖かい空気に押されて埋もれていく気がしたから。

オレはこの人達と戦争をしていたのか、と思うと、シンは少しだけ複雑な気持ちになった。みんな平和な世界を望んでいるのに、どうして争い合ってしまうのだろうか。ここの人たちはとても優しく、シンがザフトにいたことを知っていても決してそれを咎めるようなことはしなかった。この地に知り合いも殆どいないシンにとって、とてもありがたいことだったが、しかし時折それが強烈な冷気を伴いシンに襲いかかる。

休憩時間、シンはひとりで海岸の方まで出ていた。本社から少し離れた場所にあるため、ほんの数十分の休憩時間にここまでくる人はいない。ざあざあと波が揺れるのを見る。感じるのはさみしさでも悲しさでもない。孤独だ。

「こんなところで、なにしてるの?」

振り返るとそこに、シンの上司であり彼が最も苦手とする人物、キラ・ヤマトが立っていた。