・学園
・シンとキラ
・ものすごい尻切れ



not wonderful

「次移動教室だけど、行かないのか?」

誰もいない教室の中、一人ぽつんと席に腰を下ろしているクラスメイトに向かって投げかけた言葉。しかし返事は返ってこなかった。

最初にかけた言葉は、確かこんなような内容だった気がする。彼はちらりとこちらを見て、しかし何も言わずに視線をまた元に戻した。教室は静かだったし、オレは彼のすぐ近くで話したから聞こえなかったなんてことはないだろう。どれだけ待っても返事は来ず、どうしようかと困っていたら廊下から友人達に名前を呼ばれ、オレは渋々教室を出た。扉の隙間から覗いた最後に見た彼の瞳は、変らずどこか遠くを映していてオレは小さく首を傾げた。


「お前、バカだろ」

前の席に腰をかけ、椅子を跨ぐようにしこちらを向いて座る友人に唐突にそう言われ、オレは言葉を詰まらせた。

自慢じゃ無いがオレは成績は良い方だ。欠席だってしたことはないし、授業だって割と真面目に聞いている。部活動には入っていないが、バイトはしている。バイトだって今まで無遅刻無欠席だし、良く働くとほめられたことだってある。そんなオレが何故こいつらにバカ呼ばわりされなければならないのか、オレは甚だ疑問だった。そんなオレの心境を読み取ったのか、ヨウランははあと大きくため息を吐いてから、面倒臭そうに話し始めた。

「要するにお前、無視されてんだよ。キラヤマトに」

「無視?」

どうしてオレが、と訪ねると、ヨウランはまたため息を吐いた。

「お前だけじゃない、クラス全員がそうさ。まあ入学してから1ヶ月もそれに気付かずにあいつに話し掛け続けたのはお前くらいだけど」

「だって」

寂しそうに、見えたのだ。キラヤマトの横顔が。


入学して、初めて隣の席になったのがキラヤマトだった。どこの中学から来たのかはわからないが、いつも一人で席に座り、ぼんやりとどこか遠くを眺めていた。オレはヨウランがいたから平気だったが、もしかしたら彼の中学からは誰も来ていなくて一人ぼっちで、何かきっかけを探しているのかもしれないと、そう思ったのだ。いろいろと毎日話し掛けたけど殆ど返事は返って来なかった。てっきり、ただ無口なだけの奴だと思っていたのだが。

「なんで無視なんてするんだよ。友達作りたくないのかな」

首を傾げてそう問うが、ヨウランは「オレに聞くなよ」と言うだけで、他には何も言わなかった。