・学園パロ?詳細未定。
・シン→1年生。そこそこ強い。アスランザラに勝った男として有名。
・キラ→転校生。3年生。アスランザラの親友。
・アスラン→3年生。学院最強と噂される。




深 深

「転校生?この時期に?この学院に?」

ありえないな、と言い捨てて、オレは空になったジュースのパックをゴミ箱に投げた。綺麗な弧を描き、パックはゴミ箱に入る。おー、ラッキー、と呟くと、ばん、とルナマリアが机を叩いた。

「そうなのよ!」

「まさか」

「ほんとなんだってば!」

ばんばんとルナマリアが机を叩く。心なしか、机の形が変形してきたような気がして、オレは焦って「わかったから、」とルナの手を止めた。するとルナマリアは信じてもらえて嬉しかったらしく、すっとオレに顔を近づけて、耳元に手を添えて囁く。

「噂ではその人、あのアスランザラの親友らしいわよ」

そう言って、ルナはにやりと笑う。

「…アスランザラの親友?」

「そう!」

意外な言葉にオレが顔を上げると、ルナは嬉しそうにまたばん、と机を叩く。

「聞いた話によればその転校生、廊下で彼と会ったときに、『やあアスラン、久しぶりだね』って言ったんですって!信じられる?あのアスランザラに、よ!?」

最後だけ嫌に強調するように、ルナは言う。アスランザラは、いくら他人に興味のないオレでも知っているくらい有名な先輩で、この学院最強ともいわれている男だ。顔も頭も運動神経も良い、落ち着きのあるクールな男として、学院女子の憧れの対象となっている。だがアスランザラはそのクールな性格故か、人付き合いもあまり得意ではないらしく、彼は常に一人でいて、彼に話しかけようものなら、その鋭い瞳で睨まれて、凍えついてしまう生徒もいるほどだ。そんなアスランザラに、友達(しかも親友)がいるなんて、おそらく学院中の大ニュースとなっていることだろう。

「…ふーん」

だが、いくらアスランザラがクールで強くても、そのアスランザラに親友がいるとしても。オレには一切関係ないのだ。オレの関心は、アスランザラを倒すことのみだから。

オレが興味なさそうにまた窓の外を見ると、ルナマリアははぁ、と溜息をつく。

「シンってば、あんた何にも興味ないのね」

そしてそう言い、今度はまた別の生徒のところへ噂を流しに行ってしまった。




「お前の所為でまた目立つことになってしまっただろう」

はぁ、と溜息を吐いて、それでもどこか嬉しそうに、アスランは言った。深くイスに腰掛けると、生徒会長専用のそのふかふかとした高級そうなイスが、ぎしりと音をたてる。アスランは顔を上げて、目の前の応接用のソファーに座る友人の顔を見た。どうやら彼は猫舌らしく、湯のみを持ち、ふうふうとお茶を冷ましている。アスランの視線に気づいたのか、ふとこちらに顔を向けた。

「ふふふ、ごめんね」

一応謝罪の言葉は言うのだが、謝っている素振りなどまるで見られない。にこりと微笑み、また湯のみに顔を戻してしまった。キラはいつもそうだ、とアスランは思う。自分の関心のあることに対しては、恐ろしいほどの力を発揮するのだが、それ以外にはまるで興味がないらしい。多分今回の件のことをオレがいくら怒ったとしても、キラにしてみればそんなことはどうでもいいことで、今はお茶を冷ますことにしか興味はないのだろう。

「それにしても…なんでお前がこの学院に、しかもオレと同じクラスに…」

「ラクスがね、折角だからアスランと同じクラスに、って」

にこりと微笑みキラは言う。ようやくお茶が冷めたらしく、キラは静かにお茶を啜っている。それなら麦茶を飲めば良いだろう、と言ったのだが、熱いお茶を冷ました飲むのが美味しいのだ、とよくわからない答えが帰ってきた。

「彼女の所為か…」

ラクスとは、アスランとキラの恩人のような人で、この学院にも強力なコネクションも持っている。滅多にそれに頼ることのないキラが、彼女のコネを使ってこの学院にやってきたということは、よほどの理由があったのだろうか。それがわからないことを、アスランは少し悔しく思う。

「そんなことより、どの子が強いの?」

いつの間にかソファーから窓際に移動していたキラが、下校する生徒を眺めながら言う。彼の視線は窓から外されることはない。それが理由かとアスランは思った。

「キラ、」

「いいじゃない、教えてよ。キミより強い子がいるって聞いたんだけど、」

キラの目がきらりと輝いている。長年付き合っているアスランですら、数度しか見たことのない瞳だ。こうなってしまえば、キラは言うことを聞かないだろう。だが、たとえアスランがその人物を教えなくとも、キラの実力ならばすぐに身元はバレてしまうだろう。はあ、と溜息を吐く。

「お前は手を出すなよ」

「どうして?」

きょとんとした顔でキラは尋ねる。が、理由はアスランにもわからなかった。自分より強い男にキラが勝つことが嫌なのか、それとも、彼とキラが戦うことが嫌なのか。なんて身勝手な理由なんだ、とアスランは自嘲する。だが、そこは譲れない。

「どうしても、だ。明日からの生活が野宿になってもいいのなら、勝手にしろ」

「わかったよ、もう」

少しふくれた顔をしながら、キラはソファーに寝転がった。




「キミがシンアスカ?」

シンが廊下を歩いていると、突然見知らぬ男に呼び止められた。同い年か年下か、と思ったのだが、自分より年下の学年は無いし、彼のしているネクタイの色が3年生と同じものだったから、辛うじて相手が先輩だということだけはわかった。だが、シンがいつも呼び止められるのは、見るからに屈強で喧嘩っ早そうな男なのだが、彼は見るからにか弱そうな、女みたいな顔をしている男だった。彼もオレにケンカを売りにきたのだろうか。そう思い彼を見てみるが、彼はシンの瞳が気になるらしく、先刻からにこにこと微笑みながら瞳を覗き込んでいる。調子が狂う。関わりたくない、とシンは思った。

「…そうだけど、あんた誰だよ」

シンがそう言うと、隣にいたルナマリアがガン、とシンの足を蹴った。じんじんと足が痛む。彼女は女だが、女とは思えない力の持ち主だから。シンはルナマリアを睨みつけたが、逆に睨み返されてしまう。シンが驚いた顔をすると、逆にルナマリアは普段の彼女からは想像もつかないような可愛らしい笑顔を作り。

「キラヤマトさんですよね?あのアスランザラの親友の」

と言った。それを聞いて、シンははっとキラの顔を見る。あのアスランザラの親友というくらいだから、アスランザラと同じ位にクールで物静かな男か、もしくは見るからに強そうな、男の中の男というような感じの人物を想像していたのだが、シンの目の前にいるのは、辛うじてネクタイの色で年上だとわかるような、か弱そうで、可愛らしい顔をした、少年なのだ。ルナに尋ねられたキラは、

「そうだよ、よく知ってるね」

と、にこりと微笑んで言った。自分が有名人だということを知らないのだろうか、とシンは思ったが、キラのぼけっとした顔を見ると、多分気づいてないんだろうな、と思った。

「シンアスカは彼ですけど、何かご用ですか?」

ルナマリアが言う。キラの目的はオレなのに、なんでルナが返事をしているんだろう、と思ったが、割って入ればルナが怖いので、黙ったままだ。

「シンアスカって子がアスランに勝ったって聞いたから、どんな子か見にきたんだ」

キラがシンの方を見る。キラの瞳の奥で、何かがきらりと光った気がした。

「で、オレを見て、あんたはどう思ったわけ?」

シンが言う。ルナマリアに睨まれたが、シンは気にしなかった。キラから視線が離せない。アスランザラに勝ったのは事実だ。だが、それは殆ど僅差で、それに地形的な条件やアスランザラの体調不良も重なった、正にマグレな勝ちなのだ。それをキラは知っているのか、シンにはわからない。体が動かないのは、恐怖心からか、それとも。

「うーん、」

キラはシンと視線を合わせたまま言う。にこりと微笑んでいるが、シンにはそれが純粋な微笑みには見えなかった。

「ほんとうは、今ここで戦ってみようかって思ってたんだけど、やめておくよ」

そう言ってキラは、くるりと踵を返す。てくてくと歩き去っていくキラを呆然と見つめていたが、は、っと意識を取り戻し、シンはキラを追いかけた。

「待てよ!」

廊下を曲がったところで、がし、とキラの左腕を掴み、振り向かせる。キラが凄く驚いた顔をしていたが、シンにはそんなこと、どうでも良かった。

「どういうことだよ、」

シンはキラを睨み上げる。先輩だということなど関係ない。先程の恐怖心もどこかに消えてしまったようだ。キラは立ち止まりシンの方を見ると。

「キミと戦うのは、まだ先にとっておくことにしたんだ」

と言い、綺麗な笑みをみせた。一瞬それに躊躇ったシンだったが、はっと意識を取り戻しまたキラを睨み上げる。

「あんた、強いのか」

「キミよりは強いよ。もちろん、アスランよりもね」

にこりと微笑むと、強く握られていたはずのキラの腕が、するりとシンの手から抜けた。唖然とするシンを、ルナマリアが呼ぶ。

「ちょっとシンってば、何やってたのよ!」

「…別に」

いつの間にか空になった左手に、今だ彼の腕の感触が残っている。

「…畜生、」

シンは呟くと、隣で小言を呟くルナマリアを置いて、キラとは逆方向に歩いていった。









続きませんよ。

・シンに興味を持って会いに行くキラ
・キラと出会いやる気を出すシン
が書きたかったんだと思います。あと、
・キラ「もちろん、アスランよりもね」
・シン「…畜生」
が言わせたかったんだと思います。多分。